(2007年3月31日発行医師会広報)
かつて「趣味としてのピアノ(その2)」でピアノ自体の話をして、もう10年以上たち、 その後、中韓の経済の台頭やピアニストの活躍 などの社会情勢や私自体の考えも少しずつ変わって参りましたので。 今日は、買換える2台目のピアノの話をいたしましょう。
私の知る機能では、同時発振機能があります。 ドミソの和音を同時に押さえれば、3音同時発振です。発振数の多い方が当然高価になりますが、 少ないと演奏できない曲があるので問題です。音量が小さいのも不満で、アンプとスピーカーを増設すれば解決します。 しかし、あれもこれもと機能を上げるとパソコンと同様で決して安くはないのです。そして、 最大の弱点は電気製品で耐用年数が短いことです。ピアノは30年〜80年もちますが、電子部品のストックはせいぜい8年でしょう。
一方、中古ピアノは高級ブランドを安価で買えるという魅力がありますが、信用のある業者から購入しないと、 響板にヒビの入ったような欠陥品をつかまされる可能性もあります。しかも、購入するとき素人にはなかなか分からないので、 後で気づいてクレームをつけても、購入者の取り扱いが悪いからヒビが入ったなどと言われて悔しい思いをすることもあります。 ピアノを楽器として売るのではなく、書画骨董感覚で販売し「昔のピアノだから当然少々変な音がするのだ」と 平然という業者も実際にいるようですので注意が必要です。
下記の表は、いわゆる有名ブランド順に並べたGPです。表のサイズはピアノの長さ(センチメートル) で最後の試弾の○は筆者が実際に弾いた経験のあるピアノ、ないものはカタログだけしか知らないので類推の域を出ないと 思ってみていただきたいと思います。
質対価は安いと思われる1から異常に高い4まで、そして印象をA〜Cで表しています。価格は2007年1月現在のものですが、 1Aなら、この価格でこれだけの質があれば安くてお買い得感のあるもの、3Bなら価格は高いけれどもまあ妥当なところ、 3Cなら高いけれどもプレミアムピアノなので仕方ないと思われるもの、4Cならいくらプレミアムでもこれは高すぎると 思われるものです。
スタインウェイ、ベーゼンドルファーはご承知のとおりプレミアムで、どちらも円安、ユーロー高で値上げしたため手が届かないような 価格になってしまっています。スタインウェイの音大生の練習用ピアノAS188はA188と外観以外は同じなのに、 A188に極端に高い値付けをしていますので4Cにしました。ベーゼンドルファーの学生練習用CS200とA188とでは A188はパワーの面で優れていますが、肝心のスタインウェイの音がなくなっている点では、ベーゼンドルファーの音をもつ CS200に軍配が上がると思います。
S6B,S4Bはヤマハの、SK6,SK5はカワイのプレミアム商品で、ヤマハによれば、響板は東欧から輸入した高級なもので、 従来出なかった低音の通る響きが十分に出ています。また、カワイのSKは「原器工程」という手作りの工程で製作しており、 これも十分満足がいく商品と思います。割安感から注文が殺到しているSK5は手作りのため生産が追いつかないそうです。 ヤマハのS4BやカワイSK5はスタインウェイ、ベーゼンドルファーと互角に戦えるところまで来ています。日本製にないものは、 ヤマハはヤマハの、カワイはカワイの音で、スタインウェイの音ではないと言うことです。
スタインウェイはイミタブルトーン(まねのできない音)と自画自賛しておりますが、ヤマハ、カワイがスタインウェイの音を出せない というのは誤りだと思います。薬品でも後発品は尊敬されません。スタインウェイのまねをしても次のブランドといわれるだけで、 世界1にはなれません。独自の先発品をつくらねばならないことを日本の両社は分かっています。それで、ピアノの音はヤマハやカワイ の音に限ると言われるように研鑽を重ねております。したがって、レコードやCDの音(スタインウェイの音)をヤマハやカワイのピアノ に求めても無駄です。もう両社ともそれを追い求めることはやめているからです。
日本のピアノは山葉寅楠に始まり、河合小市、大橋幡岩がヤマハから独立して行きました。 大橋が1948年に作ったピアノがデアパソンで、採算を度外視した設計と品質重視の少量生産を貫いた自分の理想とするピアノを 作ったため、すぐ会社は倒産してしまい、カワイ傘下にはいっております。設計は当時のままで、それがいまだに他社と並んで存在できて いることは驚嘆に値します。またベーゼンドルファーなどヨーロッパのプレミアムブランドと同じ総一本張弦方式は日本製では唯一の もので音が出すぎて困るほどです。しかし、ブランド力が弱いため、高価で販売できないところが悲しい点です。しかし同じ価格帯の ピアノと弾き比べれば、明らかに優位な点がいまだに存在しています。
もうひとつのブランド、ボストンはスタインウェイがカワイにライセンス生産させているスタインウェイ設計のカワイ製のピアノです。 かつて、フォルクスワーゲンが日産にライセンス生産させたサンタナという車がありました。それはいくら日産が生産しても、 ファルクスワーゲン車でしたが、同じように、カワイが作ったとしても、カワイとは設計思想のまったく違う製品に仕上がっています。 それで、カワイがつくるスタインウェイの音がするピアノです。
ヤマハのC3LAはプレミアム製品ではありませんがヤマハが2002年の100周年記念モデルとして売出したC3AEが コストパーフォーマンスに優れて、人気商品になったためアーティスティックエデイションとしてつくり続けているものです。
次に、同じ表を質対価順に並べなおしたのが、上の表です。注意していただきたいのは当然ですが、 100万円台のものと1000万円台のものが同じ表に載っているからといって、同じ価値であると いっているわけではない点です。ただ、1A〜2Bまでは本当に御買得とおもわれ、 現実に購入可能な価格帯にあるという意味で、意味ある表ではないかと思います。
次に、高額商品のピアノを、どれぐらい使うと元が取れるのかという観点から、独断と偏見で償却順に表をつくってみました。
100万円台のGPは小学1年生からUPを使っていた娘が5年生ぐらいになり結構難しい曲を弾きこなすようになって、
買い与えたが、中学3年生になり高校受験をひかえて、ピアノを止めてしまったという設定で3年間。
200万円台のGPは音大を目指させようと親が少しはりこんで与えたが、
結局音大はやめて、5年間後にはピアノを弾かなくなった場合。
300万円台のGPは音大へ進んだものの、卒業後音楽と関係のない会社へ就職し、10年後はあまり弾かなくなった場合。
400万円台はピアニストの道に進んだが、結婚して子育てにおわれて20年後には仕事をしなくなった場合。
600万円台は、職業としてピアニストや音大の教授など教育関係者となり生涯にわたりピアノを続けると仮定し
一般的な耐用年数30年を設定してみました。(30年以外は仮想使用年数で耐用年数ではありません)
すると、初期投資の一番少ない部類のヤマハC3LAやデアパソンDR211が一番高くつき、 意外にも、プレミアムブランドのヤマハ、カワイはもとよりスタインウェイ、ベーゼンドルファーまでもが、 安い部類に計算上はなってしまいます。子供に与えるGPは何年使うか分からないので高く、 70歳で購入する先生が30年間弾けるかどうかは別として、先生方で生涯弾き続ける方ほど高くないことが お分かりいただけると思います。
すでに満足されているピアノをお持ちであればそのままがベストと思います。ピアノには馬同様それぞれの個性があり、 高級馬に乗換えても御しやすいかどうかは別だからです。今回は買換るときの参考として、今よりいいものを買換えたい 欲求を満たす。買ったあとに不満や後悔を残さないという観点でGPを中心に、 私の独善と偏見でお勧めのピアノのリストを挙げました。
最近はピアノ業界も経営が苦しく、ショールームに行って、積極的に自分から弾かせてほしいといわない限り デアパソンやボストンのようなピアノは弾けません。勿論売りたいピアノを勧めるのです。 ヤマハ、カワイを勧められる事は別に悪いことではありませんが もう少し他のブランドを知りたい客にも暖かく接して欲しいと思います。 しかし現実は冷たくて苦労します。選ぶときには我慢も必要です。