(2007年8月25日)
○視覚障害の原因について全国調査が行われたのは平成元年(1989年)で、
以後長らくプライバシー保護の問題からされませんでしたが、このたび15年ぶりに調査が行われ、その結果が中江公裕氏
(南九州大学健康栄養学部)により報告されました。2007年8月25日の岸和田市医師会眼科懇話会では、
この内容について説明させていただきました。
詳しくは、Ophthalmology Update Vol.22 No.1,2007, 3〜8、エクセプタ・メディカをご覧頂くこととし、ここでは、
その要点をご紹介します。 ○身体障害者の障害程度1〜6級の母集団から抽出した12.2%の2,034名が
今回の解析対象者です。男は1,048名、女は970名、性別不詳は16名でした。 ○対象者の平均年齢は67.9歳で、平成元年(1989年)の調査では70歳以上が38%で
あったのが、52.2%となり15年間で一層高齢化が進行しました。 ○障害の原因疾患別に平均年齢をみますと、後期高齢者には黄斑変性、緑内障
の順に年齢が高く、中高年では網膜色素変性、先天性の視覚障害が身体障害者の認定を受けていることが分かります。 ○最近のわが国の視覚障害の主原因は第一位が緑内障の20.8%、第二位は糖尿病網膜症の
19.0%、第三位は網膜色素変性の13.4%、ついで黄斑変性の9.1%、高度近視の7.6%、脳卒中・脳腫瘍の5.2%、先天性視覚障害の5.2%
でした。
○前回(1989年)調査との比較が上の表で、緑内障、黄斑変性が増加、白内障の減少は
著しく、高度近視も減少傾向が見られます。
○上の表は視覚障害者の疾患に占める率で男女を比較したものを並べていますが、
率でも実数でも大体同じ傾向で、緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性までの順位は男女とも変わりなく上位を占めています。
○原因疾患別に男女の比率を比べて見ますと、男性では外傷、黄斑変性が圧倒的に
多く、ついで糖尿病網膜症、脳卒中・脳腫瘍で、女性は高度近視と網脈絡膜萎縮が多い傾向がみられました。 ○上の表は、年齢別に原因疾患を比較したものですが、若年者から中年までは
糖尿病網膜症と網膜色素変性で視覚障害をきたしていますが、高齢者から後期高齢者になるに従って網膜色素変性は減少し、
糖尿病網膜症では高齢者をピークに後期高齢者になると減少しています。しかし、緑内障は年齢が上がるに従って
断トツに比率が上昇しているのが分かります。
○失明の定義は社会的失明、教育的失明などさまざまで、国際的にも統一
されているわけではありません。それで、欧米とわが国の失明原因の比較の議論の際には、ベースになる失明の定義が異なること
から議論がかみ合わないとの意見もあります。 ○それで、色々の失明の定義と比較検討する場合を想定し、
わが国の身体障害者程度等級表に従って、1級(両眼の視力の和が0.01以下)を失明とする場合、
1級〜2級(両眼の視力の和が0.04以下または視野欠損95%以上)を失明とする場合、
1級から3級(両眼の視力の和が0.08以下または視野欠損90%以上)までを含めて失明とする場合に分けて、
視覚障害者の疾患を並べて表にしたものが以下の表です。
○1級から3級までのすべての等級において緑内障が第一位で、率比較でも実数比較でも
緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性の順位は変わりませんでした ○ただ、欧米の失明原因の第一位である黄斑変性は、増加しつつあるものの
緑内障の大幅な増加のため、それほど大きな比率を占ずに第四位にとどまったことと、完全失明に近い1級は網膜色素変性や黄斑変性
では少なく、最後のところではある程度視機能が残っている人が多いことが示唆されます。
最近の視覚障害者のまとめ
視覚障害者の平均年齢
失明原因の第一位は緑内障
原因疾患別性差
年齢別疾患比較
何をもって失明とするか
平均年齢は67.9歳
第一位は緑内障、第二位は糖尿病網膜症、第三位は網膜色素変性
前回調査よりも緑内障と黄斑変性が増加、白内障は減少
男性は糖尿病網膜症と緑内障がほぼ同じ、次いで網膜色素変性が多い
女性は緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性の順に多い
外傷と黄斑変性は男性、高度近視と網脈絡膜萎縮は女性に多い
年齢層の上昇とともに緑内障が増加、網膜色素変性は減少
年齢の高い順は黄斑変性、緑内障で、網膜色素変性、先天性視覚障害は中高年多い
等級に係わらず緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性が上位を占め、増加したはずの黄斑変性は緑内障の増加で第四位に
とどまった。
網膜色素変性や黄斑変性で1級まで至った人は意外と少なかった。